「索引」事件簿File.3【「総索引」刊行に意気高く踏み出したが】
戦前から製作されていた会議録の「索引」でしたが、戦後になって、国会の「索引」をより充実させようとの機運が出てきたようです。
国会会議録に残る情報としては、1961年の参院予算審査において、村山道雄議員(自由民主党)が「索引」の整備状況をただしたのに対して、国立国会図書館の岡部史郎・副館長が「初めて予算を取りまして、それを今年度から着手する予定」と答弁している質疑があります。
第38回国会 参議院 予算委員会第一分科会 第3号 昭和36年3月29日
〇村山道雄君
国会図書館にお伺いいたしたいのでありますが、国会図書館で、国会におけるいろいろの立法、またその修正がございまして、そのつど委員会及び本会議で論議をされるわけですが、所得税法とか、関税定率法とか、国家公務員法とかという法律別に、そうしてその中の事項別に、当初の立法趣旨の説明が、何日の議事録の何ページに出ているか、それの改正のときのあれがどこに出ているかというような、全体の法律別、事項別索引というようなものができ上っておりますか。
〇国立国会図書館副館長(岡部史郎君)
ただいま村山先生からお尋ねのございましたのは、要するに従来、議事索引という形のものでございますが、これは仰せの通りの内容のものは私ども非常に必要なことだと存じておりました。従来これをやりたいと思って努力しておりましたが、今まで従来の議事総覧の形しかございませんので、この三十六年度に初めて予算を取りまして、それを今年度から着手する予定でございます。
〇村山道雄君
それは非常にけっこうなことであると思います。私、外国に行きまして国会図書館を見ますと、むしろ立法の今までの索引をどうやってこしらえるか、それがたな別にどういうふうに並べてあるかという説明を主としてされますので、やはりこれは議員立法が外国では多いからでありまして、日本では議員立法が少ないので、今までそれがなかったのだろうと思いますが、これから議員立法もだんだんふえてくるようでありますし、ぜひその設備をしていただきたいと思います。現状では単行本や専門雑誌は非常によくそろって、ほとんど何をお願いしても大てい出てくるようであります。それから、いろいろな国や民間の調査資料のようなものも相当そろっていると思いますが、この面ではもっとそろえていただきたいと思う点がございますが、一番私整備していただきたいと思いましたのは、ただいま質問いたしまして、今年からやるという御答弁のありました立法の詳しい索引でございますが、これはぜひ完備していただくようにお願いします。
この会議録を読むと、
・国会会議録「索引」拡充の背景として、国会の立法機能強化が念頭にあった(村山議員も、海外の例を引き合いに出しつつ、法律別やその中の事項別の索引を重視した問題提起をしている)
・村山議員が求めたから進展したというよりも、質疑に先立って国立国会図書館が「索引」充実化の予算を確保していたところに村山氏が質疑で加勢をした
らしいことが窺えます。
因みにこの村山―岡部質疑については、分科会主査・小酒井義男氏(日本社会党)により、予算委員会へ次のように報告されました。
第38回国会 参議院 予算委員会 第21号 昭和36年3月30日
〇小酒井義男君
第一分科会における審査の経過を御報告申し上げます。[中略]
次に、国会関係の予算につきましては、国会図書館の建設は大へん長くかかっているが、完成の目途はいつか、また、利用する者の立場からすると、立法活動の記録、ことに議事録、会議録の索引が必要であるが、作成する考えはないかとの質疑がありました。これに対し国会図書館副館長より、明年度予算一億余万円を合わせ、総額二十五億円の工事費で、本年七月末に第一期工事が終わる予定であり、八月に移転、十月から閲覧を開始するつもりである。議事録等の索引は前から作りたいと考えていたが、明年度予算で作成の費用も確保できたので、さっそく着手したい旨の答弁がありました。
国会図書館の建設費と並行して「索引」整備の予算も確保していたわけで、なかなか意気高く踏み出した当時の雰囲気が伝わってまいります。
後日談――「総索引」刊行の予算要求など
村山―岡部質疑のあとの数年間、後日談的な情報が会議録にぽつぽつと残されており。
<会議録総索引の充実等、業務の拡大による増員要求(1962年)>
第42回国会 衆議院 議院運営委員会図書館運営小委員会 第1号 昭和37年12月10日
〇鈴木隆夫国立国会図書館長
それでは、昭和三十八年度の予算概算要求の概要について御説明申し上げます。[中略]
以下、重点項目別にその概要を御説明申し上げます。
第一は、国会の国政審議に対する立法調査奉仕の強化に必要な経費でありますが、この総額は一千八百四十四万一千円であり、昭和三十七年度予算に比較いたしまして七百八十四万四千円の増加と相なっております。その内容といたしましては、一、海外の情報収集の強化及び近来特に問題となっております。EEC関係の調査等に必要な経費といたしまして三百二十五万一千円、二、各種の調査資料を刊行するために要する経費といたしまして三百八十八万九千円の増額となっております。このほか、海外情報課の新設、会議録総索引の充実等、業務の拡大による業務量増加に対処するための要員といたしまして十四名を新規に要求いたしております。
<立法調査に必要な経費として、国会会議録総索引の刊行費百二十万円ほか(1963年)>
第43回国会 衆議院 議院運営委員会図書館運営小委員会 第1号 昭和38年1月23日
〇岡部史郎国立国会図書館副館長
国立国会図書館の昭和三十八年度予算要求につきましては、格段の御尽力をいただき、厚く御礼申し上げる次第でございます。[中略]
以下、お手元にお配りいたしました昭和三十八年度国立国会図書館予算要求額事項別表によりまして、その内容を簡単に御説明申し上げます。[中略]
第二は、立法調査に必要な経費でございますが、この経費は要求の重点の一つとなっておりますもので、国政審議に対する奉仕体制を強化して参りますための経費でございます。予算要求額は一千二百十三万八千円で、前年度に比較いたしますと百五十四万一千円の増加となっております。増加のおもなものは、EEC関係の調査に要する調査謝金及び調査資料の刊行費として約十六万円、国会会議録総索引の刊行費として百二十万円、その他立法資料の購入費で約十八万円となっております。
※なお、「第43回国会 参議院 議院運営委員会 第2号 昭和38年1月21日」にもほぼ同趣旨の発言あり。
これらの会議録からも、国会の立法調査活動の重要な要素として、「索引」の整備拡充が位置付けられていたことがわかりますね。
「総索引」の意義は大きかったが
このように意気高く開始された「国会会議録総索引」の刊行事業。
「総索引」登場によって国会会議録の利用環境は大きく改善されたはずで、そのことの意義は過小評価せずに是非とも強調しておきたいところです。
しかしながら、アナログかつ人による手作業で詳細な「索引」を製作することは、想像を超える困難を伴ういばらの道でもあったのでした……。
【続く】