件数をカウントする――国会会議録のもう1つの使い方
国会会議録には、中身を読んで研究する以外にも利用法があります。
それは、ある特定のテーマがこれまでに国会で何度議論されたか、あるいはある人物は過去に国会で何回発言しているかといった、「件数」を調べるという手法です。
検索システムが整備された現在では、「過去にこのキーワードが何件」などという論戦が日常的に行われています。
ただ、よく考えると「総索引」すらなかった時代にこのような発言は不可能だったはずだし、おそらくは議員にとっても回数を数えてみようという発想さえ浮かばなかったのではないでしょうか。
私が調べた範囲では、このような「件数提示型」(仮称)の質疑が出てきたのは1990年代(=「索引」がデータベース化された時期)、盛んになったのは2010年代半ば以降(「検索システム」が議員にも定着してきた?)ではないかという印象です。
「一生懸命勘定した」から「昼休みに調べた」まで――「索引」時代の質疑から
それでは「索引」時代の「回数提示型」質疑の実例を。
まずは事項索引を用いた例。
(1)いじめ問題が国会で取り上げられた回数を調査
第131回国会 参議院文教委員会 平成6(1994)年12月13日
〇木宮和彦委員(自由民主党)
きょうはいじめに対する集中審議ということでございますので、最初にお断りしておきますが、文部省の事務方はひとつ聞き役に回っていただいて、専ら文部大臣、特に文部大臣には血の通った御答弁を賜りたいと、かように思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
私も、実は今回質問するということで資料を多少集めましたが、国会の議事録の索引のデータベースを取り寄せました、国会図書館から。そういたしましたら、ここへ持ってまいりましたけれども、これは索引ですから、だれがどこで何をはいいんです。質問者とお答えした人の名前と期日だけです。これだけあります。これがそのデータです。
そもそもこれはいつから始まったかというと、百二回の国会から百二十八回の国会までの質疑の様態がここに全部データベースとして出ています。これは内容は書いてないんですよ、事柄の索引ですから。この間に質疑が百十九回、答弁が百五十五回、私一生懸命勘定したんです。参考人が五回、公述人が一回、全部で計二百八十回、実はこれだけの審議をされておるんです。
因みに、木宮議員が遡ることができたという第102回国会とは1984年12月に召集された常会ですので、約10年分を調べたということになります。
ただ、この木宮質疑では回数も一生懸命勘定したが、同時に議論の中身も調べたというように読めるのですが、次のケースはもっと大胆です。
(2)大蔵省局長時代の国会出席は26日間
第142回国会 参議院予算委員会 平成10(1998)年4月3日
〇笠井亮委員(日本共産党)
松野参考人は、午前の質疑以来繰り返し、当時国会審議に忙殺されていた、そして山一の問題が耳に入ったので調べるように指示をしたけれども、その後トレースしなかった、確認しなかったと答弁されました。
私、昼休みに、局長がどんなに忙しかったか、当時のことを調べてまいりました。国会会議録の総索引がございます。当時、九二年でありますけれども、この問題が一月下旬ということですから、その後二月から局長がおやめになった六月まで百五十日間あります。そのうち国会で答弁されたのが何日あるか。わずか二十六日でございます。私は、国会審議が忙しかった、これはまさに言い逃れをして、そしてまともな答弁をしていないんだというふうにしか受け取れないわけであります。
笠井議員が使ったのは発言者別の索引ですね。
この笠井質疑は完全に会議録の「中身」は捨象し、「回数・件数」にのみ着目しています。
昼休みの短時間で調査したせいもあるでしょうが、そもそもの問題意識として、松野氏の発言内容にはあまり関心がなかったともいえそう。
次の藤村質疑も、総理発言の中身と共に、量的な「少なさ」への問題意識が窺われます。
(3)橋本龍太郎総理は教育改革の発言が少ない?
第142回国会 衆議院文教委員会 平成10(1998)年5月15日
〇藤村修委員(民主党)
引き続き、中高一貫教育制度導入を中心に質問をさせていただきます。
きょうの朝からの議論の中でも少しは出てきているとは思いますが、そもそも橋本内閣は、昨年の一月に、六つ目の改革として教育改革をつけ加えられて、教育改革は重要な位置づけにありますが、橋本総理、教育改革、中高一貫、このぐらいのワードで議事録などを検索いたしましても、余り発言がないのですね。
(因みに、さきほどの「総索引」を活用していた笠井質疑とこの藤村質疑とはたったの1ヵ月違い)
よって、「ワードで議事録を検索」というのは、「索引」のデータベースで検索したという意味だったのではないかと推測しております。
間違っていたら(。-人-。) ゴメンネ
検索システム登場後、件数提示型の論戦がいっそう盛んに
かつてはほぼ不可能だった「件数」の調査ですが、現代では検索システムを利用すると真っ先に目に飛び込んでくるのが、"該当する会議録は何件で、該当する発言は何箇所か"という情報です。
それぞれの時代で"できたこと"と、"できなかったこと"、アクセスできた資料は何だったかを考えながら国会会議録を読むと、新たな角度からの気づきがありそうです。
また、「件数」に着目した国会論戦が増えたのは検索システム登場後ですが、本格的に急増したのは2010年代半ば以降というのが私が調査しての印象です。その背景や影響についても検討する余地があるかも知れません。
「件数提示型」の国会発言には、前例を無視した法解釈や議会運営への抗議というケースも多いですし、また会議録の中身をきちんと読まずに「件数」だけが独り歩きするとまずい場合も想定されるからです。
「検索システム」登場後の傾向と問題点については、また別な機会に検討するかもしれないし、結局しないかも知れません(ぇ)😓
【続く】