2020/12/01

「かつて会議録の閲覧は、⼿間のかかるものだった」 #国会会議録の使われ方 その1

はじめに

 無味乾燥な法令条文の裏には国会審議のドラマあり。
 国会審議の裏には国会会議録あり。
 アンダーグラウンドな国会会議録ユーザーたちの世界を発掘する連載にレッツ・チャレンジ\\\\٩( 'ω' )و ////

 

 現在ではインターネットを通じて多様な人びとがアクセスできる国会会議録
 ところで、「国会会議録検索システム」が1999年に運用開始される以前の時代、会議録の利用環境はどのようなものだったのでしょうか。

 古い国会会議録をはじめ、蔵書やインターネット上に散在する情報をつなぎ合わせるうちに、なるほどそうだったのか、当時はこんなふうに国会会議録が使われていたのかというエピソードが少なからず出てまいりました。

 もともとそんなつもりで読み始めた文献でなくとも、あるいは参照元の資料ではまったく異なる側面に焦点を当てている出来事であっても、国会会議録ユーザーの視点で捉え直してみると、昔の国会議員は会議録を探すのにこんな方法を!といった発見があったりするものです。

 とはいえ、私自身は国会関係者でもなければ研究者でもございませんので、本連載にも知見不足や誤解がさまざまに紛れ込んでいるかと思います。
 お気づきの点がございましたら、Twitterアカウント(@kokkaipatrol)へご通報願えますと幸いです<(_ _)>

 

「かつて会議録の閲覧は、⼿間のかかるも のだった」

 予想されたことではありましたが、やはり検索システムがなかった時代には過去の会議録を調べることは大変な作業だったようです。

 

 『かつて会議録の閲覧は、手間のかかるものだった。国会図書館が国会の終了後に発行する会議録の「総索引」を開き、キーワードや議員名などを基に該当する質疑を探し、それから冊子の会議録を開かなければならなかった。

*逢坂巌『99年、会議録検索システム供⽤ 「開かれた国 会」への⻑い道』(毎⽇新聞、「平成ネット政治史」/6、2018年10⽉22⽇付)

 

 紙媒体の国会会議録を分厚く堆積させただけではどうにも利用できませんから、「索引」をはじめとしたアナログ時代なりの知恵と工夫でやり繰りしていたというわけ。
 もっとも、1980年代までに「索引」だけはデータベース化されたようなのですが、肝心の会議録本文が検索可能となるまでにはその後も長い年月を要しました。

 

 『今構築されておりますデータベースは索引のデータベースでございまして、実際にどういうふうに使うかといいますと、きょうちょっといただいたのを持ってまいりましたが、これは発言者の索引でございますが、発言者あるいは事項別索引というのも国会議員には配付をされておりまして、これをざっと見る。これが大変ならば電子計算機の端末でこれを電子的に検索するということも可能でございますが、それで、どの会議でだれの発言の中にそういう言葉があったかということがまずわかる。そういたしますと、それを今度は実際にどういう発言がされたかということは、今のシステムの中では知ることができない。それを知るためには、もう一度国会図書館へ足を運んでその会議録を見せていただく、あるいは写しをいただく、こういうことになるわけであります。もっといい姿というのは何か。それは言うまでもなく、会議録そのものをドキュメントとしてデータベースの中に取り込んでいく、それの方が利用する勝手としては甚だよろしいかと思います』

*元信堯(日本社会党・護憲共同) 衆議院予算委員会第一分科会、平成2(1990)年4月26日

 

 20世紀中の国会会議録を調べてみると、「索引」の作成や利活用に関する諸般のハプニングや、データベース化への模索など、当時の様子がある程度うかがえる逸話が出てまいりました。
 それら一連の、いわば"国会会議録にまつわる国会会議録"を本連載の主題とするつもりです。

 また、検索システムの一般公開によって、国会会議録の利用は国会関係者だけの閉鎖的なものではなくなり、研究者やジャーナリスト、趣味のウオッチャーやパトローラーにいたるまで、利用者が劇的に広がるという巨大な進歩を遂げることとなりました。
 そちらの問題は「立法府の情報公開」の文脈で触れることができればと考えております。

 

おまけ:「国会会議録」の呼称について

 一般的には「国会議事録」がメジャーでしょうし、親しまれている通称を問題視するつもりもないのですが、用語の統一性の問題もありますので、一応、この連載では原則として現在の正式名称である「国会会議録」(または「会議録」)を用います。 

 但し、
 (1)引用文献で「議事録」と表記されている場合
 (2)正式名称として「議事速記録」などが用いられていた帝国議会時代
 については、文脈に合わせる場合あり。

 とはいえ、戦前のマニアックな事情はさておき、日本国憲法下の国会に限れば、「会議録」「議事録」「速記録」はすべて同じものと捉えて頂いても、実用的に大きな間違いはなかろうと思います。

 更に進んで"マニアックな事情"が大好物なお方向けには、
 『「国会会議録」前史 : 帝国議会 議事録・委員会の会議録・速記録・決議録の成立と展開』(葦名ふみ、「レファレンス」2013-01)

 という素敵な論文がございますので、ぜひご覧下さい。

 

 【続く】

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